今日は午前中の患者さんを診た後、
私がアドバイザーを務めているフィットネスクラブのトレーナー養成講座の講師を担当して来た。


こう書くと「トレーニングの専門関係の講座?」と思う人も多いかも知れないが、
項目は「コミュニケーションテクニック」。
以前のエントリーで、ほぼ同じ内容の事を書いたが、
今回はちょっと見る視点と、具体例を挙げつつ表現を多少変えて。


トレーナー(ここではパーソナルトレーナーを指すが、基本的にはどの種のトレーナーも同様)で職を得て行くには“専門知識・技術”が不可欠である事は言うまでも無いが、
実は「コミュニケーション」がうまく取れるか否かが、非常に重要なウェートを占める。
これがうまくない為に、
非常に高いスキル(知識・技術)があるにもかかわらず、
仕事がうまく行かない人も多い。


特に、今日のテーマにしたのは、
「伝える内容・伝え方を先に考えない」という事だ。
これは営業職だろうが、ヤクザの交渉術だろうが、基本的には同じ。


例えば、クライアントから「痩せたい」との相談を受けたとする。
「太る・痩せる」というのは、様々な状況はあるにせよ、
基本的には「食べる量・消費する量」のバランスに他ならない。
だから結局は「食べる量を減らしましょう」か「体を動かす量を増やしましょう」と指導する事になる。
その為の方法論は色々あろうが、これが大原則だ。
となるとアドバイスはこれに準ずることになる訳だが、
これだけではクライアントとコミュニケーションがとれている、とは言い難い。


これは「痩せたい」という要望に対し、それに対する答えを探し、
それを伝えた、という事だけにしかならない。
コミュニケーションが取れているやり取りというのは、
必ずそこに「相手から引出したい行動を意図して、それが込められているか?」
に掛かっていると断言しても良い。
例えば、このクライアントの場合、
トレーナー側が先方から引出したい行動は、
「あ、これならやれそう」「このトレーナーにずっと付いてもらおう」
「食べる量減らして動けば良い、って言うのは分かってたけど、こういう事も重要なのか。よし、やろう!」
と言う事になる。
もっと営業的に突っ込んで考えれば、
「次回も自分に指導の依頼が来る」
出来たら「その日に次の予約を獲る」
という事まで行動を意図させられれば完璧だ。
つまり無意識的でも意識的にでも、
「はは〜ん、こいつは私にこうしろって言ってるんだな」という事が
伝わる事だ。


そう考えると、単に「食べる量減らして動け」という原則論は、
確かに正論だが、果たしてそれがクライアントの心に届くか?と考えると、
今一つ完成度に欠ける。


例えば、
「今までも同じような事は言われて来たと思いますが、食事の時間帯も大事ですよ。
食べる量と言っても漠然としてますから、例えば缶コーヒーだけ減らしてみません?」
「運動もなかなか続かないのが人情ですよ。
だったら、どの程度なら続けられそうか、一緒に考えましょうよ。
それだって、やらない状態と比べれば格段に効果があるんですから。」
「一週間これでやってみて、来週またお会いして、効果を確認しましょうよ。
他にも色々、方法は沢山あるんですよ。
でも一遍にすべてお伝えすると、頭がパンクしちゃいますから、
少しづつご提供しますよ。その方が結果的に近道ですよ。」
などなど…。


コミュニケーションの第一歩は、
「分かりやすいプレゼンテーション」であることは間違い無いが、
実は逆説的になるが、それを最初に考えてしまってはコミュニケーションは失敗する。
解決すべき「課題」と、それに対する「答え」が明らかになったら、
それをすぐ伝えるのではなくて、
「どのような行動を起こして欲しいのか?」を考えて、
その意図を含んだコメントを伝えることを考えなければならない。


要は、
「え〜っと、何をどう伝えれば良いのかな?」を先に考えない。
起こして欲しい行動(アクション)をイメージする。
“正論”が、欲しい行動(アクション)に繋がるとは限らない。


ここには当然、相手の心理や行動特性を短時間に見抜かなければならない、
という作業も加わるのだが。